エルミート行列のパウリ行列展開とその座標成分(1)

こんにちは。Kumaです。
今回はエルミート行列を展開する方法を紹介します。
これはAdvent Calendarの布石になっています。

エルミート行列の定義

エルミート行列とは、NxNの複素数の正方行列Hであって次の性質を満たすものを指します。
 H^{ \dagger } = H
ここで演算子  " \dagger "複素共役 "\star"を取ってから転置をすることを意味します。
(簡単のために N = 2 としましょう。)
すなわち、行列 Hの成分を

H =
\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d 
\end{pmatrix}
としたときに、


H^{\dagger} =
\begin{pmatrix}
a^{\star} & c^{\star} \\
b^{\star} & d^{\star} 
\end{pmatrix}
です。

エルミート行列の実数パラメータ表示

2x2の複素行列は 2^{2}個の複素数(同じことですが 2 \times 2^{2} 個の実数)を持ちます。
エルミート行列は、その性質  H^{ \dagger } = H から、以下のように自由度が縛られます。

  • 1.  a = a^{\star} , d = d^{\star} から対角要素 a,  dは実数でなければならない。
  • 2.  b = c^{\star} , c = b^{\star} から、非対角要素 b,  cはどちらか一方を決めるともう片方が決まってしまう。

条件1,により a,  d虚数成分が0と確定するので、 Hを構成する実数の自由度の数は2減ります。
条件2,により,例えば cは指定する必要がないので、 Hを構成する実数の自由度の数は2減ります。
以上により Hを構成する実数の自由度は 2 \times 2^{2} - 2 - 2 = 4 となることがわかります。
どうやら、エルミート行列 Hは4個の実数で表示できそうです。
例えば、

H =
\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d 
\end{pmatrix}

=

a
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 0 
\end{pmatrix}

+


(p + qi)
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
0 & 0 
\end{pmatrix}

+


(p + qi)^{\star}
\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
1 & 0 
\end{pmatrix}

+


d
\begin{pmatrix}
0 & 0 \\
0 & 1 
\end{pmatrix}

特別なエルミート行列としてパウリ行列

もう少しかっこよく Hを実数で分解する表式があります。そのために
次のような特別なエルミート行列  \sigma_{1},  \sigma_{2},  \sigma_{3} を定義します。


\sigma_{1} =
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & -1 
\end{pmatrix}
,
\sigma_{2} =
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
1 & 0 
\end{pmatrix}
,
\sigma_{3} =
\begin{pmatrix}
0 & -i \\
i & 0 
\end{pmatrix}

こいつらのことをパウリ行列といいます。

 \sigma 達は何が特別なのかというと、(この記事では使いませんが)変な性質を持っています。

  •  \sigma_{1}\sigma_{2} - \sigma_{2}\sigma_{1} =    2i \sigma_{3}

これは添字(1,2,3)をサイクリックに入れ替えても成り立ちます。 \sigma_{1と}\sigma_{2} は行列なので
かける順番によって結果が異なるわけですが、その”差”は相棒の \sigma_{3} に定数倍を除いて一致するらしい。
ちょっと便利さがまだよくわからないですね。

次の性質はもっと直感的にも”便利そう”です。

  •  trace (\sigma_{1}) = trace (\sigma_{2}) = trace (\sigma_{3}) = 0

ここで、 traceというのは行列の対角要素の和を取る演算であり、 trace (H) = a+d です。*1
パウリ行列たちは「トレースがゼロな行列」なんですね。
実は行列は行列を特徴づける”固有値”とよばれるN個の大事な数値を持つのですが、固有値の和は
トレースに一致するという定理があります。トレースがわかると、固有値の和はわかるわけです。*2
パウリ行列たちは2個の固有値をもつが、その和は0である ことがわかりました。

まとめ

  •  H^{ \dagger } = H となるような2x2複素正方行列をエルミート行列といい、実数4つぶんの自由度がある。
  • パウリ行列   \sigma_{1},  \sigma_{2},  \sigma_{3}  という特別なものがあり、これらはトレースゼロである。


次に、 H をトレースがゼロでない行列とトレースがゼロな行列で分解してみたい・・・のですが

長くなってしまったので、続きは別記事にします。


それでは!!

*1:trace が線形な演算であることも重要な性質です

*2:ちなみに行列式 det固有値の積と等しいです。