射影演算子のパウリ行列展開における特殊な性質
こんにちは。Kumaです。
この記事では射影演算子のパウリ行列展開における特殊な性質を紹介します。
ざっくりいうと、パウリ行列で複素数ベクトルを実数のベクトルに埋め込んだとき、
もともとの複素数ベクトルの持っていた性質がどのように”遺伝”するかを与えます。
エルミート行列のパウリ行列展開
2x2エルミート行列は、パウリ行列 と単位行列 の結合で書くことができます。
ここで はすべて実数であって次の式を満たします。
これは以前の記事で証明しています。
electrodynamics.hatenablog.com
射影演算子のパウリ行列展開
天下り的ですが、いま二成分の複素ベクトル
に対して
は射影演算子というのでした。射影演算子はエルミート演算子なので、パウリ行列展開が可能です。
ここで はすべて実数であって次の式を満たします。
複素ベクトルのノルムの遺伝
複素ベクトルのノルム(の二乗)は、パウリ行列展開の世界では次のように”遺伝”しています。
これは の成分表示から明らかです。
すなわち、複素ベクトルが規格化されていることを要請することと を要請することが同じになっています。
さらに、パウリ行列展開の式においてパウリ行列たちのトレースは0だったので、この式は
とも同じ意味です。
つまり、規格化されただけで成り立つ世界を考える場合はがなんであっても常に になるということです。
以降では規格化されただけを考えるとします。*1
すると、自由度はだけということになります。
ここから実数ベクトルを
と定義します。
以降では複素ベクトルと実数ベクトルの関係を調べてみましょう。
複素ベクトルのグローバル位相無視の遺伝
さらに
ですから、を に変えたとしても同じ が得られます。
つまり複素ベクトルから射影演算子 を作ると、のグローバル位相が消えてしまいます。
の自由度はグローバル位相を無視した場合、1つ減っています。射影演算子、ひいては の自由度も、一般の3成分実数ベクトルよりも1つ減っているはずです。
実際、について次の式が成立します。
左辺は複素ベクトルのノルム、右辺はそのパウリ行列展開したときの係数からなる実数ベクトルのノルムであることに注意してください。
いま、は規格化されていて左辺は1ですから、 が成り立ちます。つまり
です。
これが複素ベクトルのグローバル位相無視の遺伝となっています。
射影演算子という特殊なエルミート演算子がもつもう1つの特徴です。