(番外編)偏波の基礎

こんにちは。Kumaです。
この記事では偏波の基礎を説明します。
この内容はあとあと、これまで書いてきたパウリ行列のお話とリンクしますので
紹介したかったのです。

偏波とはなにか

世の中の波動には縦波と横波が存在します。

  • 縦波

媒質の振動方向が波動の進行方向と一致する(平行である)もの。

媒質の振動方向が波動の進行方向と直交するもの。*1

例えば音波は縦波であり、電磁波は横波です。*2

電磁波を考えましょう。横波だということは、波動の進行方向をz軸方向としたときに
媒質の振動はx方向とy方向があるということです。
これをx方向の成分とy方向の成分をもつベクトル eで表しましょう。


e =
\begin{pmatrix}
 e_{x} \\
 e_{y}
\end{pmatrix}

波動というのは媒質の振動がz方向に”伝わっていく”現象ですから、一般に観測地点と観測時刻の関数です。
いま、観測地点は固定しましょう。そして時間変化は正弦波的であると仮定します。*3
すなわち、

e =
\begin{pmatrix}
 e_{x}sin(\omega t + \delta_x) \\
 e_{y}sin(\omega t + \delta_y)
\end{pmatrix}
とします。
いま、 tを変化させたときに
ベクトル eの軌跡を考えることができます。これは何らかの曲線だろうと思われます。
この曲線を波動ベクトル e偏波状態といいます。

図でイメージすると、以下のような感じです。
偏光 - Wikipedia

f:id:phymath1991:20181208183317p:plain
偏波のイメージ。wikipediaより

z軸方向から眺めたときの”かたち”と表現する人もいますが、その意味は明らかですね。

偏波の分類

偏波とは、つまるところtで媒介変数表示された


e =
\begin{pmatrix}
 e_{x}sin(\omega t + \delta_x) \\
 e_{y}sin(\omega t + \delta_y)
\end{pmatrix}

の軌跡でした。軌跡は”振幅”である e_{x},e_{y}の相対関係と”位相”である \delta_{x},\delta_{y}の相対関係で決まります。
たとえば簡単な例として位相差がない場合は \delta_{x} = \delta_{y}です。
この場合、 \delta_{x,y}は軌跡においてただの初期位相なので無視しましょう。

e =
\begin{pmatrix}
 e_{x}sin(\omega t)\\
 e_{y}sin(\omega t)
\end{pmatrix}
=sin(\omega t)
\begin{pmatrix}
 e_{x}\\
 e_{y}
\end{pmatrix}
これは

e =
\begin{pmatrix}
 e_{x} \\
 e_{y}
\end{pmatrix}
方向の線分に沿って振動しているだけです。このようなものを直線偏光といいます。

f:id:phymath1991:20181208185231p:plain
直線偏光
線分の方向は e_{x},e_{y}の比に依存します。

次に e_{x},e_{y}の比が1で逆に位相が90度違うものを考えてみましょう。sinのかわりにcosにすればよいです。

e = 
\begin{pmatrix}
 e_{x}cos(\omega t) \\
 e_{x}sin(\omega t)
\end{pmatrix}

これは円の方程式ですね。
f:id:phymath1991:20181208190056p:plain
このようなものを円偏光といいます。
時計回りと反時計回りが作れます。

さて、一般の偏光の軌跡はどんなものになりそうでしょうか?
少し考えてみるとわかりますが、一般には楕円を描きます。
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desmosでシミュレータを作ってみました。
sとRを変えるといろいろな軌跡ができます。しかしそのいずれも楕円(と円、直線)にしかならないことがわかりますね。
www.desmos.com

話はこれで終わらない。

偏光とはベクトルの軌跡でした。さて、この軌跡はベクトル e【一対一に】対応しているでしょうか。
一見、対応していそうに思えます。
しかし、それは正しくないのです。

直線偏光に対応するようなベクトル eは実は2つあるのです。


e_{1} =
\begin{pmatrix}
 e_{x} \\
 e_{y}
\end{pmatrix}
sin(\omega t)



e_{2} =
\begin{pmatrix}
 -e_{x} \\
 -e_{y}
\end{pmatrix}
sin(\omega t)

です。これらはベクトルの軌跡の”初期位置”が違うだけで、描く軌跡だけをみると区別できません。
一方で、 e_{x}かe_{y} の片方だけにマイナスをつけたものは、描く直線が異なるのでこれとは区別できます。
つまり直線偏光は、ベクトルと偏光が【2対1で】対応するのです。

一般の偏光に対してはどうでしょうか?このような”縮退したペア”は存在するでしょうか?

難しくなってきました。
今回はここまでにしましょう!

*1:電磁波の場合、”媒質”という用語は本来は適切ではないかもしれません。

*2:電磁波が横波であることはMaxwell方程式から確認できます

*3:これは波動がFourier展開できる限り一般性を失いません